1929年以降の主な株式市場暴落と個人投資家への教訓

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Introduction

過去30年の米国相場を振り返ると10%を超える調整相場は2年に1回程度、20%を超える弱気相場は10年に1回の頻度で発生しています。

2022年10月から始まった上昇トレンドは2年5ヶ月が経過しており、調整や下落が発生する確率は少しずつ高まってきていると考えられます。

調整相場や弱気相場が発生したときに長期投資をしているポートフォリオを慌てて売ってしまうことのないよう心の準備をしておくことはとても大切です。

本記事では米国相場の過去の暴落を振り返り、個人投資家としてどのような対策ができるのかをご紹介します。長期的な視点で資産を増やしていけるよう少しでも参考になれば嬉しいです。

以下の5つのポイントをまとめています。

  1. 主な暴落の背景と共通点
    • 1929年の大恐慌、1987年のブラックマンデー、2000年のドットコム・バブル、2008年のリーマン・ショック、2020年のコロナショックと、いずれも投資家の楽観ムードが過度に高まり、いわゆる“バブル”状態から恐怖・パニックへ一気に転じた。
    • いずれの暴落も、資産の過大評価やレバレッジ(信用取引)の増大が引き金になりやすい。
  2. 市場心理の急激な変化
    • 暴落時には「欲望→過信→ちょっとした悪材料→パニック」という流れが多い。
    • 1929年や2008年など、投機と過剰な自信が一転して不信と恐怖に変わり、売りが連鎖して暴落を加速させる。
  3. 経済・金融システムへの影響
    • 1929年や2008年のように、金融機関が深く関わると深刻な信用収縮を招き、実体経済へ大打撃を与え不況に至るケースが多い。
    • 一方で1987年や2020年は、当局の迅速な金融・財政施策によって比較的短期間で市場が反発した例もあり、政策対応の重要性が示された。
  4. 歴史が示す主な教訓
    • 分散投資で特定の資産の下落リスクを相殺する。
    • パニック売りを避け、長期視点で考える。
    • 過度なレバレッジや投機に警戒し、ストップロスやオプションを使ったリスク管理を徹底する。
    • マクロ指標(金利・イールドカーブなど)をチェックし、バブルの兆候や不況のサインを見逃さない。
  5. 個人投資家への具体的アドバイス
    • 暴落に備えて現金や安全資産を一定割合で保有しておき、割安となった有望銘柄を買い向かう余地を残す。
    • ファンダメンタル分析とテクニカル分析を組み合わせて、“割高・割安”や“過熱・売られすぎ”のサインを見極める。
    • 暴落後の回復局面では市場が大きく反発することが多く、むやみに底値で投げ売りしないことが肝要。

それでは、過去に発生した相場の暴落にはどのようなものがあったのか、また何が原因だったのかを見ていきましょう。

1929年 – 世界大恐慌の暴落

背景と原因

1920年代後半、“狂騒の20年代”と呼ばれる時代に、株式市場は大きな上昇を遂げました。株式への過度な投機が蔓延しており、多くの一般市民が生活費の貯蓄(そして借入金を含む信用取引)を株式につぎ込み、株価は企業の実態価値をはるかに超える水準に押し上げられました(DUE TODAY: What (or whom) is to blame for the Stock Market Crash …)。この投機的バブルは持続不可能なバリュエーション(過大評価)を生み出します。他にも、富の偏在、高水準の消費者債務、農業不況など経済の構造的弱点があり、システムは脆弱でした。1929年秋には、景気後退の兆候や金利上昇により投資家の信認が揺らぎ、深刻な調整に向かう下地が整ってしまいました。

市場心理と暴落

1929年10月末、株式市場の心理は一変します。数年間の過度な自信の後、一気に投資家がパニックに陥りました。売りが始まったのはブラックサーズデー(1929年10月24日)で、ブラックマンデー(同年10月28日)に加速し、ブラックチューズデー(同年10月29日)に頂点を迎えました。これらの日に怒涛の売りが殺到し、株価が急落。ダウ平均は10月28日に約13%下落、その後も下げ続けました(On Black Monday – Audacy)。恐怖が欲望を上回ると、追加証拠金の呼び出し(マージンコール)による投げ売りが連鎖的に起こり、相場は下方スパイラルに陥ります。1932年までに、米国株はピーク時の約90%もの価値を失いました。投資家心理は、非合理的な熱狂から絶望へ急転換し、市場への大きな不信感が広がりました。

影響と余波

1929年の暴落は、経済への信認を深刻に打ち砕きWhat were the causes of the Great Depression? | Britannica)、壊滅的な影響を及ぼしました。預金者のお金を株式に投資していた銀行は巨額の損失を被り、銀行取り付け騒ぎが相次ぎ、危機がさらに深刻化。企業と消費者は支出や投資を大幅に削減し、大きな景気後退を招きました(What were the causes of the Great Depression? | Britannica)。この株式市場の崩壊は世界恐慌の引き金と見なされ、1930年代を通じて世界的な不況、記録的な失業率、デフレなどが続きます。のちに、米国ではSEC(証券取引委員会)やFDIC(連邦預金保険公社)の設立など、金融システムの信頼回復を目的とした改革が行われました。しかし、その直後の投資家世代にとって、投機的ブームや過度なレバレッジがもたらす過酷な教訓はあまりにも痛烈でした。


1987年 – ブラックマンデーの暴落

背景と原因

1980年代半ばから、世界の株式市場は堅調な経済成長と強気の投資家心理を背景に上昇傾向にありました。しかし1987年時点で、株価は過大評価されており、市場は過度の楽観に包まれていました。新たな要因としては、コンピュータを利用した取引戦略の台頭が挙げられます。特に、プログラム売買によるポートフォリオ保険(相場下落時に自動的に先物や株式を売るアルゴリズム)に注目が集まりました。1987年10月19日(ブラックマンデー)、これらの要因が重なって売りの連鎖が発生。きっかけとなったのは、相場が下落した際に大口売りを発動するこれらのプログラム売買モデルであり、投資家のパニックと集団心理が合わさって売り圧力を急増させたと考えられています(Black Monday: Lessons from the 1987 Market Crash – Colibri Trader)。金利上昇や地政学的懸念など外部要因も多少の影響はありましたが、特定のニュースが直接引き金となったわけではなく、恐怖を増幅させるフィードバックループが主要因でした。

ブラックマンデー当日の市場心理

ブラックマンデー当日は、これまでにない規模のパニック売りが発生しました。ダウ平均株価は1日で約22%下落(Black Monday: Definition in Stocks, What Caused It, and Losses)し、当時としては史上最大の1日下落率を記録。アジア→ヨーロッパ→米国の順に市場が開くと、恐怖が波及し、翌日のアジア市場まで連鎖的に売りが広がりました。それまで強気だった投資家も一斉に市場から逃げ出し、「周りが売っているから売る」というような集団心理の典型例が浮き彫りになりました。専門家の中には、この暴落を「恐怖が一気に欲望を上回った事例」と評する向きもあります。

影響と余波

1日の下落としては甚大だったものの、1987年の暴落は1929年のように長期的な不況を招くには至りませんでした。米連邦準備制度(FRB)が流動性を迅速に供給したこともあって、実体経済へのダメージは限定的であり、深刻な景気後退にはつながりませんでした。株価も数ヶ月のうちに大部分を回復し、完全な回復には多少時間がかかったものの、長期不況は回避されました。とはいえ、この暴落によって市場構造やリスク管理の問題が浮き彫りになります。サーキットブレーカー(一定以上の下落で自動的に取引を停止する仕組み)などの改革が行われ(Timeline of U.S. Stock Market Crashes – Investopedia)、プログラム売買のリスクにも警鐘が鳴らされました。特に、明確なファンダメンタル要因がなくても、相場の仕組みや心理だけで極端な変動が起こりうることを、個人投資家も痛感した事例となりました。投資家にとって1987年は、市場の変動がどれほど急でありうるか、また保険や備えの重要性を示した象徴的な年です。


2000年 – ドットコム・バブルの崩壊

背景と原因

1990年代後半はインターネットとテクノロジーセクターが台頭するドットコム・ブームの時代でした。“.com”と名の付く企業であれば、利益や売上がほとんどなくとも莫大な資金が集まり、IT株のバリエーションは急上昇。ナスダック総合指数は、1995年から2000年3月のピークまでに約800%上昇したと言われています(Dot-com bubble – Wikipedia)。この熱狂は、投機的なフィーバー、潤沢な資金、そして「新しい経済の到来」という信念に支えられていました。多くの新規参入投資家が、IT系IPOや“終わりなき成長”と見なされたハイテク株をこぞって買い集めました。しかし2000年前後には、過大評価やFRBの利上げ(投機やインフレを抑制する狙い)によって熱狂は徐々に冷め始めます。いくつかの著名テック企業が期待を裏切ったことで投資家の信認が崩れ、バブルが破裂に向かいました。

市場心理と暴落

市場の雰囲気は2000年春から徐々に不安へと傾き、痛みを伴う下落が2001年、2002年にかけて進行。シンボル的存在だったナスダックはピークから約78%下落(Dot-com bubble – Wikipedia)し、ドットコム企業の倒産が相次いだことで、ITバブルは完全に崩壊しました。この間、推定で5兆ドル以上の株式時価総額が消失(Dot-com bubble – Wikipedia)。一部の著名企業が次々と破綻し(Pets.com などが象徴例)、楽観一色だった心理が一転して悲観へ。空前の熱狂のなか、株価は「上がり続ける」と思っていた多くの個人投資家が深刻な損失を被りました。

影響と余波

ITバブル崩壊により、特にテクノロジーや通信関連分野を中心に、米国は2001年に軽度の景気後退に突入。多くの投資家がポートフォリオに大打撃を受け、消費行動にも影響が出ました。ただし1929年や2008年ほど金融システム全体が脆弱化したわけではなく、銀行などは比較的健全だったため経済への衝撃は限定的でした。株式市場は、主要指数(とりわけナスダック)の完全回復に長い時間を要し、中でもナスダックはピーク回復まで約15年かかりました。ドットコム崩壊の大きな教訓は、「たとえ革新的なテクノロジーであっても、無限の株価上昇を正当化するわけではない」という点です。ファンダメンタル分析の重要性(実際に事業が成立するかどうかの見極め)や、集団心理への警戒感など、多くの学びが残りました。暴落後、テック企業はより持続可能なビジネスモデルを意識し、投資家も資金提供を慎重に行うようになる等の変化が見られました(ただし常に長続きするとは限りませんが)。


2008年 – リーマン・ショック(世界金融危機)

背景と原因

2008年の金融危機は、米国の住宅バブルが原因となりました。低金利と積極的な融資姿勢が相まって、2000年代半ばには多くの米国民が家を購入し、サブプライムローン(返済能力の低い借り手への高リスク融資)を抱えた人が急増。金融機関はこれらの住宅ローンを束ねた証券(MBSやCDO)を大量に作り出し、そのリスクを過小評価していました。住宅バブルが崩壊して、高リスク層の債務不履行(デフォルト)が急増し、これらの証券の価値が暴落。金融システムの信用収縮が一気に進行します(The Collapse of Lehman Brothers: A Case Study – Investopedia)。2008年9月、リーマン・ブラザーズという創業158年の大手投資銀行が破綻し、事態は決定的に悪化(Lehman Brothers: History, Collapse, Role in the Great Recession)。世界中の市場が大混乱に陥りました。

市場心理と暴落

暴落の直前まで、市場には過度の安心感が漂っていました。投資家や金融機関は、デリバティブや保険(CDS)などの“金融工学”によってリスクは分散されていると誤認していたのです。しかし2007年頃から、ベア・スターンズ系ヘッジファンドの破綻など、不穏な兆しが現れ始め、徐々に恐怖が高まります。そして2008年9月、リーマン・ブラザーズ倒産を契機に投資家のパニックは極点に達します。世界の株式市場は大幅下落を繰り返し、銀行同士の信用不安から貸し借りがストップ。9月29日には米国の金融救済法案が一度否決され、ダウ平均が約7%暴落するなど、システミックな恐怖が支配しました。危機は世界中に波及し、各国の金融機関が米国の証券に関わっていたことで国際的にクレジット・マーケットが連鎖的に凍り付きます(Lehman Brothers | Program on Financial Stability)。2009年3月までにS&P 500は2007年のピークから約57%下落し、深刻な悲観ムードに包まれました。

影響と余波

2008年の暴落は、世界恐慌以来最悪ともいわれる景気後退(「大不況」と呼ばれる)を招きました。信用収縮と消費の落ち込みで、米国をはじめ主要国は軒並みリセッション入り。失業率は米国で2009年に10%を超えるなど深刻化。各国の政府・中央銀行は未曾有の対策に乗り出し、米国政府は7000億ドル規模のTARPを通じて銀行の救済を図り、FRBは金利をゼロ近辺まで下げて大量の資金を供給。これらの政策が次第に金融システムを安定させ、2009年3月には株式市場が底を打ち、その後は長期にわたる回復基調に入りました。アフターマスとしては、金融規制の強化(例:2010年のドッド=フランク法)や銀行に対する資本増強・ストレステストの実施などが挙げられ、同様の危機を回避するための取り組みが進められました。投資家にとって、2008年はシステミックリスクの恐ろしさを再認識させる出来事であり、全体の金融システムが危機に陥った時には、株式の分散投資だけでは損失を逃れにくいことが証明されました。また、金融機関がどのようなリスクを取っているか理解する重要性や、最悪時にも対応できるリスク管理の必要性を痛感させられたのです。


2020年 – COVID-19ショック(コロナショック)

背景と原因

2020年前半まで、株式市場は過去10年に及ぶ強気相場と堅調な経済を背景に史上最高水準にありました。しかし、新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的拡大によって情勢は一変。感染抑制のためのロックダウンや渡航制限が広がり、多くの産業活動が突然停止しました。2020年2~3月にかけての急激な悪化は投資家に大きな衝撃を与え、主要株価指数は歴史的にも類を見ない短期間で暴落。S&P 500は最高値から約34%下落するまで、わずか22営業日という非常に短い期間でした([PDF] An Unprecedented Shock – Hightower Texas)。引き金となったのは、パンデミックが企業収益を直撃し、深刻な景気後退をもたらす可能性が急速に認識されたためでした(What Was the COVID-19 Stock Market Crash of 2020? Causes …)。

市場心理と暴落

2020年3月の市場心理は、先の読めないパニックと不確実性に支配されていました。投資家は現金確保に走り、あらゆる資産を一斉に売却する「キャッシュが最優先」の行動が広がりました(The Global Dash for Cash in March 2020 – Liberty Street Economics)。ボラティリティ指数(VIX)は過去最高水準に達し、数カ月かけて崩壊するケースが多い伝統的な暴落とは異なり、わずか数週間で強気相場から弱気相場へと急転落しました。この間、「いつロックダウンが終わるのか」「企業活動への打撃はどれほど深刻か」が全く読めず、最悪のシナリオを想定する心理が強かったのです。こうした中、FRBをはじめとする各国中央銀行が事実上「無制限の支援」を表明し、政府も巨額の財政出動を行うと決定したことで、3月下旬頃から恐怖が次第に緩和されていきました。

影響と余波

コロナによる株式市場の暴落は急激かつ深刻でしたが、その後の回復も非常に速かったことが特徴です。政策対応が早期に打ち出され、各国政府・中央銀行の大規模な景気下支え策によって、わずか1カ月ほどで底を打ち、同年後半には主要株価指数がコロナ前の水準を回復、あるいは上回るほど急反発しました(S&P 500 ends at another record high as tumultuous 2020 ends …)。経済面では、世界銀行が「1世紀ぶりの規模」と指摘したように、強制的な経済停止に伴う世界的な深刻不況を招きましたが、財政・金融政策の後押しで比較的短期間での反発が可能になりました(Chapter 1. The economic impacts of the COVID-19 crisis – World Bank)。投資家にとって、2020年は市場の驚異的な変動と回復力を示した年であり、底でパニック売りをしてしまった人は、その後の反発局面を逃す結果となりました。一方で、予測不能な外部リスク(パンデミック等)への対応策をあらためて考えさせられる出来事でもあり、過酷なシナリオに耐えうる投資計画の重要性が再確認されました。


個人投資家が学ぶべき教訓と戦略

株式市場の暴落は恐怖を伴いますが、その反面、対応を学び、適切な戦略を取ることでポートフォリオを守り、時には好機をつかむことも可能です。1929年から2020年までの暴落を振り返ることで見えてくる、重要な原則と具体的なアクションを以下にまとめます。

  1. 資産を分散させる
    投資資金を一つの資産クラスに集中させないことが重要です。暴落の歴史は、複数の資産クラスが異なる反応を示すことを物語っています。株・債券・海外市場・不動産や金などに分散投資することで、株式市場が下落したときのダメージを和らげられるStock Market Crash: Causes, History, and How to Protect Your …)。例えば株が下落する局面で債券が上昇することもあり、損失を相殺できます(How to help protect your investment portfolio during stock market …)。セクターや地域も含めて幅広く分散し、一つの下落要因に過度に巻き込まれないようにしましょう。
  2. パニック売りを避ける
    暴落時に最悪なのは、恐怖だけで保有資産を投げ売りしてしまうことです。暴落で株をパニック売りすると、含み損を確定損にしてしまいます(Here’s what to do if you are in big loss after crypto market crash)。歴史的に、株式市場はある程度の期間を経れば下落から回復する傾向があります。例えば、2008年や2020年3月に底値付近で売却した投資家は、その後の大幅な反発を逃してしまいました。慌てずに長期計画に沿った行動を取り、優良な銘柄の下落は買い増しのチャンスととらえる場合もあります。感情をコントロールし、市場のボラティリティを「一時的なもの」と見なす冷静さが重要です。
  3. 長期的視点を維持する
    長期的な目的で投資をしている場合、暴落は一時的な障害であり、恒久的な損失ではないと考えられます。過去の例が示す通り、株式市場は数度の危機を経ても長期的には右肩上がりを続けてきました。長期投資のマインドを持つことで、短期的なボラティリティに左右されず、1929年や2008年のような暴落時でも冷静に対応できる(How can investors protect themselves during the crypto market crash?)。例えば、2008年の暴落時に投資を継続していた人は、その後10年をかけた市場の上昇を享受できました。時間を味方につけ、短期的な上下動に振り回されないことが肝心です。投資目的を明確にし、日々の値動きではなく数年単位の成果を重視するようにしましょう。
  4. ファンダメンタル分析とテクニカル分析を賢く併用する
    ファンダメンタル分析(企業や資産の内在価値や財務状況、経済環境などを見極める)は、暴落局面での下落が買い場か、あるいはさらなる警戒が必要かの判断材料となります。もし企業の基礎体力がしっかりしていても株価が下落しているなら、割安な買いチャンスかもしれません。一方、テクニカル分析(価格チャートやトレンドを見る)は、市場心理の動向を読み解くうえで役立ちます。バブル期の加熱感(オーバーボート)や、暴落時の売られすぎ(オーバーソールド)といった兆候を把握できるでしょう(Expert Strategies for Surviving a Stock Market Crash)。2000年のドットコムバブル前には、PERなどのファンダメンタル指標が極端に高水準に達していた一方で、テクニカルでも過熱サインが出ていました。暴落時は、テクニカル(サポートラインやトレンド反転)で売りの勢いが弱まるポイントを確認し、ファンダメンタルからみて割安な銘柄を狙うなど、両者を組み合わせると効果的です。ただし、どんな分析手法でも完全に先行きを予測することはできないため、過信は禁物です。
  5. リスク管理の徹底(下値リスクを守る)
    暴落を乗り切るには、適切なリスク管理が不可欠です。まず、リスク許容度に応じたアセット・アロケーション(株式・債券などの配分)を設定し、自分が精神的・経済的に耐えうるリスク量を超えないようにしましょう。株式投資においては、ストップロス注文を設定しておき、価格が一定水準を割り込んだら自動的に売却して損失を限定する方法も有効です。あるいは、プットオプションを用いたヘッジ戦略を組むことも検討できます(Limiting Losses: What It Means, How It Works – Investopedia)。さらに、現金や流動性の高い資産をある程度確保しておくことで、緊急時に資金が必要になった際に損失を抱えたまま売却せずに済むほか、暴落時に割安になった銘柄を買い向かうチャンスも得られます。1929年の例が示すとおり、過度なレバレッジ(借金で投資)に頼ると、下落局面で損失が倍増してしまいます。定期的なリバランス(資産配分を目標に戻す)も、上がった資産を売り、下がった資産を買うことで「高値売り・安値買い」を機械的に行いやすくするリスク管理手法です。最後に、前述したとおり分散投資自体がリスク管理の一環になります(株式下落時に値崩れしにくい債券を保有するなど)。
  6. マクロ経済指標をウォッチする
    大暴落はしばしば景気後退と連動するため、経済全体の状況を把握しておくことが有益です。金利・インフレ率・信用成長・イールドカーブなどのマクロ経済指標を観察していると、警戒すべきリスク要因を早期に捉えられる可能性があります。例えば、逆イールド(長期金利より短期金利が高い状態)はリセッションのシグナルとして歴史的に一定の信頼性があり(What are the key macroeconomic indicators to watch? – IG)、リセッションはしばしば株式の弱気局面と重なることが多いです。イールドカーブが逆転したら、一度ポートフォリオのリスクを見直すきっかけとなるでしょう。同様に、金利の急上昇やインフレの急増は企業の借入コストを押し上げ、資産バブルを冷やすことがあるため、暴落の誘因になり得ます。家計や企業の債務水準も注視すべき指標で、過度の債務が蓄積しているとバブル崩壊時の損害が拡大しやすいのは、2008年の住宅バブルで明らかです。もちろん、マクロ指標だけで正確なタイミングを測ることは難しいですが、経済状況を把握しておくことで不意打ちを食らいにくくなります。もし製造業の生産が縮小し失業が増加するなど、景気悪化の兆候が強まるなら、ポートフォリオをより防御的にする(株式比率を下げて債券や現金を増やすなど)といった調整を検討してもよいでしょう。結局のところ、状況を把握する努力を怠らなければ、市場が大きく動いたときにも冷静に対処しやすくなります。

Conclusion.

1929年、1987年、2000年、2008年、そして2020年という主要な暴落を分析すると、市場の熱狂と油断が、いつしか恐怖と崩壊につながるというパターンが浮かび上がります。しかし、どの暴落の後も株式市場は最終的に回復を遂げ、新たな高値を更新してきました。個人投資家にとって肝要なのは、「暴落が起きる前に備えておくこと」—資産の分散、リスク許容度の明確化、そして冷静な姿勢を保つことです。暴落の最中は混乱や恐怖が伴いますが、感情に流されず、長期的な戦略や基本原則を守ることが大切です。そして暴落後には、何が間違っていたのかを振り返り、必要に応じて投資手法を修正しましょう。危機は避けられないものですが、そのたびに得られる教訓をうまく活かせば、暴落を乗り越えた先で資産形成の可能性をさらに高めることができるでしょう。

最後まで読んでいただきありがとうございました。この記事を読んでくださった方々の資産が長期的に増えていくことに少しでも役に立てば幸いです。

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